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胎蔵界曼荼羅は二つの根本両界の一方で金剛界曼荼羅と相対している。それは蓮華の花によって表象され、胎蔵界諸仏の慈悲の徳をあらわしている。胎蔵とは、含蔵の意味を含んでおり、あたかも世間の賤しい女の胎に輸王の聖胎を得たように、凡夫の煩悩淤泥の心中に諸仏の智悲の功徳が含蔵せられているのを言うのである。

(『天人五衰三島由紀夫

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・・・しかし私の最も痛切に感じたのは、最後に墨の余りで書き添えたらしく見える、もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろうという意味の文句でした。

(『こころ』夏目漱石

・・・おれはしだいに世と離れ、人と遠ざかり、噴悶と漸恚とによってますます己の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。人間はだれでも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。

・・・どうしても夢でないと悟らねばならなかったとき、自分は茫然とした。そして懼れた。全く、どんなことでも起こり得るのだと思うて、深く懼れた。しかし、なぜこんなことになったのだろう。わからぬ。全く何事も我々にはわからぬ。理由もわからずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きてゆくのが、我々生き物のさだめだ。自分はすぐに死を思うた。(『山月記中島敦

 

えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦燥と云おうか嫌悪と云おうか(『檸檬』梶井基次郎

すると笑い聲の静まった後、父はまだ微笑を浮かべたまま大きい手に保吉の頸すぢをたたいた。「お目出度なると云ふことはね、死んでしまふと云ふことだよ。」

芥川龍之介『少年』)